つたえ隊Vol.23 紙月+ 法月由紀子さん

 

法月由紀子さん

教室の先生や

教室に関わる人物を紹介する

「つたえ隊」。

 

第23回目は、和紙を使った貼り絵や小物作りを教える、

和紙工房 紙月+

法月由紀子さん。

艶やかな色合いと温かみのある風合いを持つ友禅和紙。色とりどりの和紙を使った小物作りを習いに訪れるのは、小学生から70代と世代は幅広い。それぞれのペースやセンスで、時におしゃべりを楽しみながら和紙に触れるひとときは、穏やかで上質なひととき。由紀子さんが歩んできた道のりの中で編み出された時間だ。 和紙の魅力、そしてならいごととの関わりについて法月さんに聞いた。

 

 

出逢いは一目惚れだった

 

手作業が好き、和紙が好き

一番下の子どもが幼稚園に上がり、昼に時間が取れるようになったので、パートを探していたところ、「和紙工房」という文字に目が留まりました。和紙に興味があったわけでも、そういう仕事をしていたわけでもありませんが(笑)。工房=手作業だろうし、手作業は好き!と、単純に気になったんです。

趣味でトールペイントをしたり陶芸教室に行ったりする程度ですが、手作りは嫌いではなかったこともあります。 工房を訪ね、生まれて初めて和紙を見て、ひと目惚れしちゃったのが、この世界への第一歩。見た瞬間「こんなに美しいものがあったのか?!」と、衝撃を受けました。

 

 

 

 

技を見て覚える

 

技を盗む感覚で見て覚えました

最初は、未経験者ということで「門前払い」。募集内容は、箱に和紙を貼ったり工芸品を作る手伝いでしたが、将来的には支店を出したいので店長候補が欲しいとのことで、「駐車場もないし、未経験者じゃねぇ…」と、半分断られたような感じでしたね。 でも、どうしても諦めきれなくて、自分の描いた絵と絵の写真を持って、軽トラでもう一度、工房に行きました。「軽トラだから脇に置けます。私、絵も描けます。」と猛アピールして、結果、半ば強引に雇ってもらいました(笑)。

手先が器用な経験者がもうひとり雇われたのですが、私には初歩的な内容、その人には難しい仕事、という具合に棲み分けがされていました。私が手を止めて見ていると「あなたはそっちをやってなさい」と言われる始末。悔しかったので、脇で見ながら技を盗み、聞き耳立てて「そういうふうに作るんだ」と分かってからは、自分でさっさとやって試していました。

今思えば、一から十まで手取り足取り教えてもらうより、0.5ぐらいを教えてもらうって、その残りを自分で考える方が、自分の性格に向いていたように思います。-最初と出来上がりだけ見せてくれれば、自分で仕上げられる―そんな自信がありました。自分で切り開いていくやり方が向いていたのかもしれません。

 

 

 

風に乗る

 

いい流れを逃さない

仕事を始めて8カ月が経った時、工房を辞めて独立しました。パートをしていた専業主婦が突然、個人事業主です。なぜ始めたのか、今でもよく分かりません。ただ、実家の車庫を改装して教室にしたいと両親に言ったときも、銀行にお金を借りたいと夫に言ったときも、不思議と誰も反対しなかったんです。やりたいことに向けて、自然と歯車がぐるぐると回り出した感じでした。

子どもの頃から人見知りで口数も少なくて…大人しい性格の私が、工房を始めてからは「取引先を探そう」と飛び込み営業も難なくこなすようになったんです。自分の変化に驚きつつも、それはそれは必死でした。売り上げを補てんするためにアルバイトをしながら続けた時期もあります。でも以前から、人見知りで大人しい自分に「違和感」を感じていたのかもしれません。独立がトリガーとなって、本来の自分に気づくことができたのかもしれませんね。

もう1つ言えるのは、人生の転機で「風が吹く」と感じる瞬間が確かにあるということ。就職も結婚も、そして独立も、ピューピュー風が吹いてきたので、それにとりあえず乗っかってみようかな、という感覚でした。逆らうと苦しいので従ってみよう。そうすると、結果的に、案外楽だったという感覚でした。

 

 

お年寄りが集える場所

 

踊っていて楽しくなっていく

最初は商品の販売だけのつもりでしたが、1年目から教室を始めました。それは、心の中に「お年寄りを大事にしたい」という気持ちがあったからです。 私は20代で結婚して3人の子育てをしながら夫の祖母を介護していました。乳飲み子と幼児を抱え、お腹の中にはもう一人いるという状態で94歳のおばあさんの世話をしていたんです。時には家政婦さんにお願いしたり、施設に一時預かりを頼んだりしましたが、自分自身も無我夢中でしたから、仕方ないと思っていたんです。でも亡くなってから「もうちょっと親切にできなかったのか」と後悔する部分があったのかもしれません。

 

今、教室には70歳を超えた生徒さんがたくさん来られていますが、教室では手も頭も使うしおしゃべりもするので、それが認知症の予防や生きがいになったりするなら、今の生徒さんたちがずっと教室に通えるようにしたいと思っています。時々若い生徒さんが親御さんを連れて来られますが、その親御さんは和紙を見るだけで感動して喜んでくれたりします。和紙の彩りは私にとっても癒しですが、みなさんにとっても癒しであり、それが「触れ合い」や「思いやり」に繋がれば幸せです。和紙を通じて「愛」が伝えられたらいいなと思っています。

 

 

これからがオリジナル

 

常に現在から脱皮するイメージ

最近、工房をリニューアルして、それを機に、昔の作品も出してきました。昔のものはなんとなく封印していましたが、この際、さらけ出してしまおうと思って飾っています。今までは人をモチーフにした作品が多かったんですが、これからは自然をテーマにしたいですね。工房を始めて15年経ち、円熟期。今から作るものが、自分にとっての本物、これからが本当のオリジナルかも、と感じています。シンプルに花や植物、作品を見たときにエネルギーを感じられたり、見る人に自然を彷彿とさせるような、そんなものができたら面白いですね。