スペシャリストインタビューvol.51 前田直紀さん

 

 

前田直紀という陶芸家は、人とのコミュニケーションが好きなアーティスト。外の刺激を能動的に受け容れる印象がある。

その制作風景すら“魅せる”のは、彼自身が自らを「セラミックコミュニケーター」と名乗る所以であり、パフォーミングアートのようなその公開制作は、彼のテンションそのものを映し出している。

彼にとっては制作風景も表現のひとつ。その掌から生まれる器やオブジェは、さり気なく存在感や意思が宿る小さな生命体のようであり、どこか軽快さを感じる。それもそのはず、国内外で自然と向き合う制作を続けながら、現代的土着表現を追究し続け、常に土との対話を重ねているためだ。

 

 

 

現在の活動を教えて下さい。

 

毎日土に触る生活をしています。

【陶芸作家として、器作家として】

年3~4回、毎回約200点くらいを個展や企画展で発表し、注文制作を含めれば、年間3000個くらいを制作しています。注文制作では、企業から依頼を受けてノベルティを制作したり、ご依頼主様に合わせたデザインを起こして制作しています。この間の依頼は某ジュエリー屋さんからで1週間で280枚をオリジナル制作しました。その他、新規オープン店舗のコンセプトやインテリアに合わせた器やカトラリーの提案、店舗様の植物や料理に合わせた鉢や器の提案等…毎日土に触っています。

 

【セラミックコミュニケーターとして】

県や教育機関の依頼でワークショップや講演を行ったり、セラミックコミュニケーター(陶芸を使ったコミュニケーションを促進する人)として、アートプログラムを実施しています。元々8年間NHK文化センターで講師をしていましたが、今現在では「教える:1割」「作る:9割」くらい。僕は特定の会派にもこだわっていませんし、大きなコンクールや賞、コンペにも出品しません。それでも陶芸界で生きていくことはできます。むしろ、誰も知らないところで制作ができるこの環境が好き。自由だからこその苦しみもありますが、僕の制作風景やスピード感を見せることで、世界の人がどういう反応をしてくれるのかを知るのが楽しくて、定期的に海外で公開制作や販売をするようにしています。

 

 

 

 

セラミックコミュニケーターとして活動しはじめたきっかけは?

 

セラミックコミュニケーターとしても活動

海外から帰ってきて、作品を鑑賞するだけが陶芸ではなく、作る工程も陶芸だと意識するようになりました。作るだけではなく、みんなで共有できること=陶芸を使ったコミュニケーション→セラミックコミュニケーターと転化し、普通の陶芸家ではない仕事としてプログラムを立ち上げるようになりました。

 

藤枝おんぱく2015体験プログラム「おもいでの土」

http://fujiedaonpaku.jp/programs/54cc7b5f777777482d930000


アートコネクトインしまだ

http://art-connect.arica-shop.com/index.php?%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0

 

 

 

海外に行ってどのようなことを吸収しましたか?

 

公開制作を海外で行った時の異国の人の表情が評価

僕の参加した「アーティストインレジデンス」は、招待を受けて世界各国を回って公開制作を行うもの。フランスでは、モチーフの意味、ラグジュアリー感の演出表現の重要性、綺麗に見せる手法を学び、フィンランドでは、環境を活かす制作方法に気づかされたりしました。海外で公開制作をすると、陶芸を始めたころのワクワク感がよみがえり、原点に戻ることができます。僕のことを知らない人たちの前で、作陶風景を生で見てもらう。その正直な反応こそが僕にとっての評価だと気づきました。

 

僕のオブジェは漆を使うのですが、フィンランドには「室(水蒸気を含ませて漆を硬化させる場所)」がなかったので、サウナを実験的に室代わりにして制作したり、そこが使えないとなると、珪砂と苔…フィンランド特有の大地に埋めて「大地の湿気」で制作したり…現地のものや環境を臨機応変に活かす「機転」を学ぶことができました。

そこでしかできないもの…現地の土ごと持ってきて利用するこの方法は、「どこにでも神様がいる=土着」といった日本人誰しもが持つ精神文化を紹介するには、ピッタリでした。

 

 

 

 

陶芸家になったきっかけ、大切な出逢いを教えてください。 

 

全ての出逢い、それぞれが糧です

【藤枝市陶芸センター館長】小4の頃、母親に連れられて行った陶芸講座の先生に「天才だ!」と歪んだ器を褒められたことが嬉しくて、その時その気になったのかな(笑)。ちなみにその先生は今の藤枝陶芸センターの館長。そこで僕が講師をすることになるなんて、二人とも全くイメージしていなかったと思います。

 

【星野暁先生】大学で環境デザイン(建築)を専攻し、そこのクラフトコースで教えていた、世界的に有名な陶芸家、星野先生との出逢いもきっかけです。世界中を飛び回る先生の話が面白くて、陶芸って面白いな、器って素敵だなと毎日思いながら打ち込みました。

 

【野嶋信夫先生】京都の野嶋信夫先生との出逢いも大切です。アシスタントとして、来る日も来る日も制作し、土と向き合う日々を過ごしました。粘土の目地や繊維の方向だったり、粒子が円盤状のレンズのようなものの集まりのようだとか…「気付け」というタイプの先生だったので、そんな毎日の中で盗む力や観察眼が養われました。星野先生は魅せる焼き物、オブジェで、野嶋先生は食べてく焼き物、器。楽しさと厳しさ…対極的な二人に教わったことは今の糧となっています。

 

 

 

こだわり、大切にしているものを教えてください。

 

作品の向こう側の誰かを意識しています

作品を作る時、この向こう側には必ず誰かがいると意識して制作します。器の場合、使う人と交換日記をしているような感覚で、オブジェに関しては、見る人に長い手紙を書いているようなイメージです。技法や手法に関してのこだわりは特にありません。

今年はマカロンシリーズがメインですが、恐らく3年前の僕の個展を見ている方が今の作品を見ると、別人が作っている印象だと思います。今の手法は「現在」の手法でしかなくて、ずっと進化する中での1時点なんですよね。その時に思いついたり、インスピレーションを受けたものが表現に出ているんだと思います。

 

 

何をしているときが楽しいですか?夢は何ですか?

 

藤枝の工房にて

作品やデザインを考えている時。あとは、苦しかったり、キツかったり…無茶なことを乗り越えた時ですね。丸々1ヶ月の仕事を1週間で仕上げたり…僕が綱渡りをしてる様を誰かが見て笑って心配してくれている「チープスリル」な状況も楽しいですね。本性剥き出しで制作している時も楽しいです。

夢は、僕=これ!というような、代名詞的なものが作り出せれば、腰を据えて「半農半陶」生活を送ることです。地元の土、木、薪窯で陶器を焼き、地元に根付いた生活です。今はフットワークで知識や知恵を稼ぎ、ため込む時期。基本いただいた依頼は、依頼を下さった方に迷惑が掛からない限り断りませんし、将来の「半農半陶」のために自転車をこいで土地を耕しているのが今なのかもしれません。

 

 

 

 

何かやりたい、始めたいという方にメッセージをお願いします。

 

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やってみたいと思った時がチャンスです。やってみて気づくことの方が多いですから。例えば陶芸でも、教室に行ってみて、やってみて、気づくという流れは同じ。1回やってみてつまらなくても、何回か続けていれば面白くなることだってあります。上手くなると好きになる。1回で判断せず、選り好みせず、何でも食べて口に入れてみてから、全ては始まる気がします。

 

 

 

 

マカロンシリーズの茶器が「第69回全国お茶まつり静岡大会」で展示されています。実施プログラム内の「お茶ミュージアム」コーナーにて@MIRAIEリアン多目的ホール→詳細はこちら

 

前田直紀さんは、2015年11月20日(金)21(土)22(日)開催の「第3回国際陶芸フェスティバルinささま」に参加します。詳細はこちら

facebookイベントページはこちら

 


オブジェ【蜘蛛の糸】

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器【マカロンシリーズ】

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PROFILE


前田直紀 さん

陶芸家。セラミックコミュニケーター。

 

1977静岡県藤枝市に生まれる。

大阪産業大学環境デザイン学科卒(星野暁氏に師事)京都宇治にて修業(野嶋信夫氏に師事)NHK文化センター、藤枝市陶芸センター元講師静岡県工芸家協会理事2013 Artist in residense (仏)workshop&symposium (フィンランド)International ceramic artfestival(sizuoka)2014 フランス、台湾、韓国、フィンランド、イタリア、チェコで展示や制作

地元藤枝にて毎日作陶中

 

 

 

 


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