太田克樹の声色や空気感は、どこか切なく、憂いを帯びている。22歳大学生。夢と現実。歌手か就職か?思い悩む進路のこと…。等身大の彼が声に滲み出る。控えめに語り、言葉を慎重に選ぶ姿や、周囲への感謝を心から表現できる彼の生き方は、とても丁寧だ。“今どきの若者”というより、どこか古風で、たおやかな印象がある。
「夢はひとつではない」という歌詞、メロディラインをやわらかになぞるように歌い、高音域でも無理のないのびやかな声。グイグイひき込む我の強いメッセンジャー、というよりも、じんわりと雰囲気に浸らせてくれる詩人のような歌手だ。
小さい頃は、友達とサッカーや野球をしたり、川で遊んだり…外で遊ぶタイプの子どもでした。サッカーは小4から高校卒業まで部活でやっていて、ちょっと足が速かったのもあり、裏を抜けて点を取るFW。小・中・高…ずっとサッカーが僕の一番でした。
歌は、というと、車の中で母が歌っているのをずっと聴いていたり、小さい頃から家族でカラオケに行って歌ったり…身近な存在でしたが、優先順位が上で大好き!というわけではありませんでした。中学に入り友達とカラオケに行くようになると、ちょっと歌が人より得意かな?と感じて歌うことに興味が沸き、テレビに出演する歌手の真似をして合わせていたら、ビブラートができるようになったり、歌=得意なことだと気づいてからは、歌うことが楽しくなっていきましたね。ただそこから「歌手になりたい」という夢にはならなかったです。
僕は中学や高校では、学園祭で歌う人を見てかっこいいな、と“聴く側”専門でした。高校まででサッカーをやりきったので、新しく何かをと思った時、そこに歌があったので、大学からは歌に打ち込むことにしました。
県大の学園祭で歌って優勝した後、「もっと客観的に自分の実力を知りたい」と思った時に見つけたのが、「トコカラグランプリ」。
トコカラグランプリは、TOKAIケーブルネットワークの人気カラオケ番組で、優勝特典がオリジナル楽曲で歌手デビューをすることでした。不謹慎かもしれませんが、力試し&大学生活の記念や思い出くらいの軽い気持ちでエントリーしました。月間チャンピオンで勝ち続け、グランドチャンピオン大会(清水マリナート)に進むことが決まり、僕の大好きな秦さん(秦基博)が歌った会場で決勝が開催されることを知った時、「同じ舞台に立ちたい」と初めて欲が出てきました。
2年前の秦さんのコンサートでは聴く側だった僕が、同じステージに立てるなんて!準決勝で森山直太朗さんの「生きとし生ける物へ」を選んだのは、僕の歌に特徴を出すため。決勝の選曲は秦さんの「アイ」。秦さんと同じ場所に立てるなら、この曲しかないと思いました。決勝ではもう「勝ち負け」は頭から抜け落ち、自分らしく歌うことだけが目的でした。
ずっと打ち込んできたサッカーに替わって1位になった、現在の僕の「中心」。
デビューをした今でも、常に歌う時は緊張してしまいますが、はじめは歌い切ることで精いっぱい。いろんな方々が僕の活動に関わり、助けてくれるようになってからは、聴いてくださる方々の顔が、はっきりと見えるようになりました。
聴く人が僕の歌で何かを感じたり、喜怒哀楽といった感情に寄り添うものであったら嬉しいです。
それはもう、トコカラグランプリで優勝したことですね。トコカラの決勝に出る前は、ちょうど就職活動の時期。僕には特に、これが絶対やりたいという明確なものが無かったんです。そこに歌手という新しい目標ができたことで、生活が色づき始めました。人前で歌う機会を得たことで、人との関わりという「新しい歌の楽しさ」に気づくことができて、とても感謝しています。
ミスターチルドレンの「PADDLE」という曲に、「良い事があってこその笑顔じゃなくて笑顔でいたら良い事ある」という歌詞があるんですが、そのフレーズにも支えられましたね。
「感謝」することです。
活動を始めてから、周りの方々の存在や骨折り、心遣いが本当にありがたいなと、強く感じています。
その感謝をきちんと伝えることで、またその次の感謝を伝える機会(ステージ)に繋がったり…感謝して生きていくことは、大切にしたいですね。僕ひとりの力では、ここに立つことはできなかったと思います。
日々関わってくださるスタッフの方々やファンの方…全てに感謝しながら、活動していきたいと思います。
大学の友達と遊んでいる時ですね。軽音サークルの友達。意外にも、音楽の話は一切しません。一番仲のいい友達の家は、みんなのたまり場になっていて、僕はその子の部屋の合鍵で、いつでもそこに荷物を取りに行けたりします(笑)。
無理のない関係や肩の力が抜けた付き合いのできる友達と、ご飯を食べたり、ゲームセンターに行ったり…一緒の時間を過ごしている時です。
今は歌手活動に専念していますが、まずは、来年1月、清水のマリナート大ホールで開催するコンサートを成功させることです。この活動のひと区切り、集大成でもあるコンサートの成功こそが、今の目標であり夢です。
その後、社会人としてどう生きていくかについて、いろんな可能性を考えていますが、今の時点でひとつに絞れない状態。
まさに「ひとりじゃない」の歌詞
「夢はひとつではない」んですよね。
遅い早いは関係なくて、やりたいと思ったら、やってみることが大事。僕の好きな秦さんの曲「やわらかな午後に遅い朝食を」の歌詞に、「何かを始めるのに遅すぎるなんてないから」というフレーズがありますが、本当にその通りです。
きっかけは何だっていい。中学や高校から音楽をやっている人たちに追いつくことはできないかもしれませんが、大切なのは音楽をやりたい、歌いたいと思う、気持ち。そこから僕は大学に入って自ら進んで踏み出した結果、こういう機会を得ることができたんです。何かやりたいと思った時が、スタートではないでしょうか。
太田克樹 さん
愛知県豊橋市出身。高校卒業後、大学進学の為、静岡県駿河区に移住。大学内のライブイベントなどに積極的に参加し、人前で歌う経験を重ねる。
2014年冬、静岡県で放送されているTOKAIケーブルネットワークの人気カラオケ番組「トコカラグランプリ」に出場。月間チャンピオンとなり、さらに頂点を目指すべく、グランドチャンピオン大会へと進む。
2015年3月、静岡市清水区にある「清水マリナート」大ホールで行われたグランドチャンピオン大会(ゲスト:山本譲二さん)では、1000人の観客を前に歌唱。見事優勝し、2014年大会グランドチャンピオンになる。
番組からグランドチャンピオンに贈られる優勝特典である全国CDデビューのチャンスを得て、2015年7月10日(金)、ついに念願のデビューシングル「ひとりじゃない/VOICE」(両A面)をリリース。楽曲提供及びサウンドプロデューサーは、「トコカラグランプリ」のゲスト審査員としても出演、数々のアーティストに楽曲提供を行っている近藤薫氏が担当した。
2016年1月には、静岡市清水区にある「清水マリナート」大ホールでコンサート開催が決定。
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