スペシャリストインタビューvol.49 山田ゆかさん

 

 

企業のモデルハウスに佇む彼女のアートを見た時、繊細で丁寧な手仕事に感心するとともに、温もりや優しさといった情緒も同時にアートから醸し出ていたのが印象的だった。

顔を近づけて作品をつぶさに観察すると、彼女の心遣いのようなものが、さり気なくそっとそこに息づいているのを感じる。

「アーティストの山田ゆかさんです」と紹介されたその人は、ベビーフェイスで微笑み、気難しい気鋭の芸術家とは明らかに違う柔和さをたたえていた。

かたや、インタビューの節々で感じた強い「芯」は、彼女の「核」であり、アーティスト山田ゆかを形成する重要な「意思」。
この創作をする意味について迫った。

 

 

 

現在の活動を教えて下さい。

 

デザイナー、アーティスト両面で活動しています。

デザイナーとして、ロゴデザインやイラスト、キャラクターを制作したり、ホームページや販促ツールを作成したり等、グラフィックに関わるデザイン業務をしています。

 

一方で、アーティストとして、破棄されるのが当たり前のトイレットペーパーの芯をリサイクルし、個展や展示、ワークショップを実施したり、レンタルや販売活動を行っています。創作活動はリサイクルアートが主体ですね。

 

 

 

 

トイレットペーパー芯紙管リサイクルアート誕生のきっかけは?

 

リサイクルアートとして身近だった芯を使ったのがきっかけ。

5年前まで私は、リサイクル品で雑貨を作り、依頼があれば物販をしたり…どちらかというと受動的な仕事としてアートで空間を飾ったりしていました。しかしデザイナーとして、もっと知恵やアイデア、感性を活かした能動的な活動がしたいと思い、理想と現実の狭間で悩んでもいました。

そんなある時、会場を既に用意された状態で「リサイクルアート」というざっくりとした題での個展依頼が私に舞い込み、なぜリサイクル品で雑貨を作るのか、デザイナーとしての自分のスタンスは何なのか等、自分を白紙に戻して活動理念やコンセプトについて深く掘り下げることになったんです。―何をリサイクルすべきか?―結果、私の中でもともと身近な存在だったトイレットペーパーの芯に焦点が合ったんです。

 

トイレットペーパーの芯は、日常生活はもちろん、リサイクル雑貨を作る時に、ろうそくの型取り…新しいものをうみ出すために使っていた、私にとってクロコ的存在。当たり前に消えゆくものが、存在意義を得ることで価値観のシンボル、メインになるとしたら!?ワクワクしながら腑に落ちたというか…それがきっかけで、何かが動きはじめたかのように私の中で変化が起こりました。今現在でも、トイレットペーパー芯紙管リサイクルアートという、誰もやったことのない未踏の領域を拓くような期待と不安は持っています。

 

 

 

参加型アートとは?

 

みなさんに協力してもらってできるアート

このアートの目的は、元来リサイクル対象でない存在がフォーカスされることで、サイクル意識が教化・共有され続けるサスティナブルな状態を生み出すことです。さらに意識を深く共有するためには、当事者意識を持つことが必要不可欠。実は、はじめての個展の時、制作し始めると、もともと集めていた芯では数が大幅に足りずに、周りの協力でかき集め、何とか間に合わせた状態。個展開催中も、空間を飾るアートを作り続け、作品の補充を繰り返していました。

 

それらのことで「トイレットペーパー芯紙管アート=参加型アート」という性質に気づき、個展後に続々とコラボが決定したことで、世間の関心の高さも知ることができました。

 

 

 

転機はありましたか?

 

正しくシンプルに、伝える。

活動を続けている中で、企業様から依頼される形で空間デザインやワークショップを開催するようになり、様々なメディア(民放全て)に取り上げられるようになったあたりでしょうか。目新しさや面白さという引力も手伝い、「今日にでも手に入るトイレットペーパーの芯を使ったクラフト」「私にもできる身近なクラフト」という間違った解釈から「家でやってみます」「夏休みの宿題で子供にやらせます」という声が聞こえるようになり、私の中の違和感はどんどん増幅していったんです。

 

アートは提案や価値観の表現。アートとして捉えてもらえないのは、トイレットペーパーの芯という存在自体がそれをボカしているのか?アートワーク自体にやってみようと思うほどの拙さがあるのか?私自身、巨大アートや微細アートを試作してテクニックに走ってしまったり…いろいろ考え悩みました。始めたきっかけ、続ける意味等、基本スタンスを見直してみると、アート自体が道なき道を作るものであり、先駆者不在のケモノ道を整備しながら突き進むものだと再認識できたんです。何を表現するかや、その手法も全て自分で決めることができるものだと。

それ以来もうブレることはなく、考えや価値観をもってアートしているというプロ意識のもとに、伝え方や提案方法までが変わったように思います。真似できないものではなく、真似しようとは思わない域の…価値観の息づくアートをするという動機で制作しています。

 

 

こだわり、大切にしている価値観やこれからの夢を教えてください。

 

MUG TEAにて

私のアートは、皆様の協力があってやらせていただくことができるもの、皆様に参加していただかないと成立しないアートです。「サスティナブルな価値観」がアートの根幹にありますが、皆様に参加し続けていただくためには、1)アートに感動する段階→2)共感の段階→3)意識を共有段階の3つが必要不可欠です。価値観を継続的に共有することが、このアートの目的。「モノを作り出す人間」には相応の責任が伴います。現代人の目の前には雑多なものが大量に溢れ、どんな価値観か表現されているのかが不明瞭で、何が自分に必要なのかを迷わせるようなものもあります。そうならないように、私自身いつも意識しています。たいせつなのは物質文化ではなく、情緒文化。「与えられる」から「必要なものを選ぶ」ことです。

 

お陰様で民放全てでこのアートを取り上げていただき、「これがトイレットペーパーの芯でできているなんて凄い!」という感動を全国的に点で残すことができました。今後は、その点を線にすべく、私の周りだけで動いていた車輪が、各地で増殖して大きな流れになって「リサイクル意識」が共有され続ける社会になるような活動をしていきたい。それは夢のひとつです。個展はもちろん、公的な評価を受けるべくビエンナーレに挑戦したり、リサイクルアートを必要としている企業様とコラボレーションしたり等、これからやることは山積みですね。

 

 

何をしているときが楽しいですか?

 

1日単位で生きている

小さいことに毎日ドキドキワクワクしているので…毎日ちょっとしたことで笑える時でしょうか。

楽しい1日が終わったなと思って寝る時もそう。

寝る=今日を終わらせる意識のもと、1日単位で生きている人間なんですよ(笑)。

 

 

 

 

 

 

何かやりたい、始めたいという方にメッセージをお願いします。

 

人生は常に通過点。

Never too late.From new start.

 

自分と向き合う自発の時間は貴重。人生は常に通過点。やりたいことが見つかるまでやり続けることです。ならいごとはお金を出して価値観が変えるものですから、どんどんやってみればいいんです。やりたいことが見つかるまで、諦めずに探す!何かをすることで心が豊かになり、どこでも自分らしく人生を楽しむことができる人になれたら、とても素敵ですよね。

ならいごとって、もしかしたらそういう要素もあるのではないでしょうか。

 

 

 

 

トイレットペーパー芯紙管アーティスト山田ゆかさん

 

 


 


 

PROFILE


山田ゆか さん

トイレットペーパー芯紙管アーティスト。デザイナー。ヤマダデザイン代表。MUG TEAオーナー。

 

東京都出身。高校を卒業後、大手電機メーカーに就職し、技術管理部にて取扱説明書や仕様書、図面作成等のテクニカルライティングを行ううちに、デザインに興味を持ち、バンタンデザイン研究所、グラフィックデザイン科・Macデザイン科に入学し卒業。各ブランドの販促ツールの制作(Web制作、チラシ、パンフレット制作など)、新規ブランド立ち上げや、既存サイトのリニューアルなど、デザイナー兼ディレクターとしてサイト管理運営を行う。ホスティングやディレクションの知識を生かし、SOHOでウェブインテグレーターとして、提案・制作・運営管理を行う。その後、静岡へ移住し、ヤマダデザインとして現在に至る。

 

2015年6月、活動拠点の2Fに、オリジナルハーブティーが楽しめるカフェMUG TEAをオープン。

 

 

 

 


Official web site

yamadauca(アーティストサイト)

ヤマダデザイン

MUG TEA