スペシャリストインタビューvol.46ナガタロッソさん

 

 

イタリアンレッドの名を冠したイラストレータ―は、決してブレない自己実現の動機を持っている。好きなものは明確。ただ偏屈な印象はない。

 

俯瞰でものごとを捉え、短いセンテンスで、的確な答えを返すロッソさん。

懐の深さや間口の広さがうかがい知れるのは、彼の生み出した多彩な仕事や産物が物語っている。
ある時は美的な価値を創出する現代美術作家、ある時は多彩なグラフィック表現で広告を成立させるイラストレーター、またある時は…。

どんな顔を持っていようが、彼の全ての動機の原点は、自身が楽しみ他人が喜ぶことにある。

 

現在の活動を教えて下さい。

 

イラストレーションが中心です

現在は、広告コマーシャルのイラストレーションがメインの活動です。それに付随したグラフィックデザインや、コマーシャルのアニメーションも作ります。キャラクター制作も行いますが、そのほとんどはデジタルで完結します。中には立体物やフィギュアを頼まれることもあり、様々な素材で作り、中には腕や首が動くものもあり、洋服は型紙を作ってスタッフが縫製して作ります。


現代美術の分野では毎年個展を開催したり、アートプロジェクトに参加したり、作家としての活動もしています。展示もしますが、作品を売っていくことが作家活動のメイン。今年も9/9(水)~23(水)@焼津ギャラリーパンプキンで開催が決定しており、そこでは展示即売を行います。絵を売ることと、広告のイラストレーションを描くことは別の仕事ですが、現代美術でもお客さんから広告の仕事をいただいたり、その逆だったり…ここから作って出すというスタンスは変わらないので、リンクする部分もあります。

 

 

 

イラストレーターになったきっかけを教えてください。

 

絵の仕事しかないと思った

自分は絵を描き続けることが生きる道だと思っていたので、イラストレーターになればすぐお金になると思ったのが、この道を選んだきっかけです。

小さい頃から絵を描いたり、物を作ったりすることが好きで、毎日、1日何をして過ごそうかと考えていました。小学生くらいになると、なんだかちょっと変わった絵を描く子だと、僕の周りが騒ぎ出したんです。好きで楽しんで描いていた僕に、“変わっている”という意識は皆無でした。見たものを描く絵が中心でしたが、マンガもたくさん描いていましたね。小学校の頃、仲間5人でマンガ雑誌を作っていたんですよ。白いノートに鉛筆で描いた雑誌を週刊誌で20号くらいまで発行していましたね。高校は美術学校に通い、絵を描いたり、物を作ったりする時間はたっぷりありました。社会に出る時も、絵の仕事をすれば、そういう時間も確保できると考え仕事を探しました。マンガは高校まで好きで描いていましたが、仕事にする興味が無かったので、職業=マンガ家や、美大に進学して芸術家になるという選択肢はありませんでした。

 

 

 

絵とはどのような向き合い方をしてきましたか?

 

毎日描くためにはどうしたらいいか考えました

高校の頃から描いて売っていた僕の絵は、イラストレーションに近いものでした。イラストレーションは美術的な知識と要素があった方が良く、クオリティを高められる世界。はじめは広告の仕事ではなく、家具や履物に絵を描く絵付けの仕事に就きました。その次に表現の自由を求めて就いた職業が、広告関係のイラストレーターだったんです。仕事をしてはじめて、イラストレーターという仕事が分かった気がしました。毎日イラストレーターとして絵を描くためにはどうしたらいいのかを考えていました。

やっていることと気持ちは、子どもの頃と何も変わりません。描いたものを人に見せて、みんなが喜んでくれて、それが嬉しいからまた描く。それの繰り返しです。このシンプルな構造は不変で、大人になった今はお金がもらえる。それだけが違います。ずっと描き続けることが僕のやりたいことなので、絵とは自分にとってそういうものですね。

 

 

 

転機はありましたか?

 

広告業界に入ったこと?

ずっと同じことを続けてきただけで、その状況と環境が変わっているだけ。僕にとっての転機はないのかもしれません。大きく変わったというものはないです。

強いて挙げるならば、広告業界に入ったことでしょうか。 さらに挙げるとすれば、7年ほど前から現代美術の作家と知り合うようになって、作家サイドの情報を得られるようになったことですね。イラストレーターとして忙しく、仕事がお金になっていたので、作家活動をすることは考えていなかったんですが、そっちもきちんとやっていこうと思うきっかけになりました。

作家活動とイラストレーターとしての仕事は、表現方法も、お客さんの層も、仕事の楽しさのレベルも違います。作家は個人のお客さんが多いので、企業や世の中を相手にする広告の場合とは異なる面白さがあることに気が付きました。僕の中には、広告のイラストレーションやアニメーション、グラフィックデザイン、三次元や二次元等、色々なカテゴリーがあり、仕事運びが違いますが、現代美術はその中のひとつという位置づけです。

 

 

 


 

印象に残る出逢いを教えてください。

 

全ての出逢いが印象的

15歳で絵を描くというレベルのピークに達し、様々な表現に挑戦したピカソ等、もともと影響を受け、尊敬していた芸術家はいますが、単一のセンセーショナルな出逢いはありません。独立すれば、仕事のバリエーションも増え、限界がなくなると思ったので、その準備ができたらしようと思っていました。独立した後にいろんな人と出逢いましたが、同じ業界で活躍していて、自分よりも凄く活躍している作家との出逢い全てが印象に残っていますね。

 

 

 

こだわり、大切にしているものを教えてください。

 

苦手なのでコミュニケーションは大切にしている

いろいろな持ち駒を増やしていきたいと考えているので、マニアックになりすぎないようにしています。深すぎず、浅すぎず…そのためには適度なところで止めていかないと、キャパシティーも時間もなくなってしまいます。ある程度気が済むまでやってみて、この先突き詰めると凄くなるだろうなと気付くともう、他に目が行っていたりします(笑)。趣味ではバイクとクルマが好きで、29台乗り継いでいます。そうすると、長く乗り続けるものもあれば、数か月で手放すものもありますよね?深くハマりすぎない感覚は、それに似ているのかもしれません。

仕事に関しては、コミュニケーションを大切にしようと心掛けています。お客さんに対して精一杯のことをする。僕自身、コミュニケーションは苦手な部分なので、意識するようにしています。

 

 

 

何をしているときが楽しいですか?

 

立体を作るのも楽しい

立体作品を作っている時は楽しいですね。絵を描くことより、立体物を作ることの方が、小さい頃から多かったからかもしれません。仕事は時に苦痛を伴うこともありますが、作品の創作中に描きたいものや作りたいものが出てきた時も楽しいですね。

できるだけ楽しく生活したり、いろんなことがしたいので、ものづくりのための何かをしている時が楽しいんだと思います。日常的には、バイクやクルマに乗ったり、映画を見ている時かな。

 

 

 

夢を教えて下さい。

 

現代美術にも打ち込みたい

夢物語はたくさんありますよ。テイラースイフトとデートしたいとか、宇宙へ行ってみたいとか(笑)。自分がやっていること、イラストレーションやアニメーション、現代美術等のその延長線上に何があるかをイメージしながら、クオリティを高めていきたいと思っています。それは技術面や経済面でもそうですが、感性的な面も。

人によっては、イラストレーションが認められて現代美術の世界で花が開く場合もありますが、美術とイラストレーションを両立し、現代美術の方も頑張っていきたいと思っています。

 

 

 

何かやりたい、始めたいという方にメッセージをお願いします。

 

何のためにしたいのかを考える

生活を楽しくするために趣味としてやるのか、それを仕事としてやりたいのか、目的が何かで答えは違ってきますね。趣味なら気楽に始めればいいと思いますが、仕事としてやる場合は、やりたいという気持ちだけでは足りません。生活を作るものとしてやらなければならないというスタンスが必要不可欠です。その時、明確に仕事にしたいと思い立って実現するまでの道筋を立てられるかどうか。どんな資格、どんな勉強が必要なのか。マストの事項を潰して、そこにたどり着く必要があります。仕事の場合、なりたいだけでは足りません。なると決めたら、他のことはしない。仕事にするために何が必要かを整理して実行していくことです。

 

 

 

 

 

 

 

ナガタロッソさん

 

 


 


 

 

 

PROFILE

ナガタロッソさん

 1966年生まれ ロッソグラフィカ代表。静岡を拠点にイラストレーション制作とアートを融合している。2001年に発行したフリーペーパー「DEAD STOCK」は、その後のクリエイター達に影響を与え、地域アートプロジェクト「エガコウヤ」では、地下道壁面に330メートルに渡る前代未聞の塗り絵を制作し、商店街の活性化に協力。「DECWAS(デクワス)」でドイツ・ブレーメンの作家と友好を深め、ブレーメンにてレジデンスを行った。アナログ・デジタル・立体等、幅広い表現でハイクオリティな作品を多数制作している。膨大な数の作品は街や生活空間、様々な場所に溢れている。2014年、画集絵本「おてんば赤うさぎ」発行。同キャラクターを使用し、裏呉服町通りの紹介冊子の制作に参加。県内外の催事キャンペーンを中心とした広告イラストレーション、企業キャラクターの制作、コマーシャルのアニメーション制作、フェスタのフィギュア制作を多数手掛け、ワークショップやグループ展、企画展等のアートプロジェクトにも精力的に参加。2015年9月 には恒例の個展開催を予定している。

 

 

 

 

 


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