難しく語るタイプのデザイナーとは真逆の花澤さん。
自己主張が強いタイプではなく、静かに物事の”芯”との距離を詰めてゆく印象だ。
ていねいに話に耳を傾け、柔らかく紡ぐように言葉を発する。
「刺身の味をひきたてる“あしらい”」のように、クライアントに寄り添った提案を実践する、プランナー寄りのデザイナー。
前向きな姿勢で謙虚にものごとに取り組むデザイナーが見つめるその先には、いったい何があるのだろうか。
生活用品や家具の製品デザインをしています。製品を作る時は、お店での見え方、展示会であれば企画の切り口について伝えるところまでをイメージするので、全てが連動するプロモーションもお手伝いさせていただいています。
提案が意図とは違う方向に進まないように、「できれば関わっておせっかいしたい!」と思い、付随するグラフィック等の販売促進ツールや商品企画なども行っています。
昔はモノづくりをする職人と市場との間に、流通の卸業者さんがいて、そこがアイデアを出し、デザインをまとめ、モノづくりを職人さんにお願いし、仕入れて販売するところまでをやっていました。今はそういった卸業者が減ってしまい、職人さんはバラバラで仕事をしていて、それぞれをつなぐ人がいない状態。幸運にも僕は、そういった方達の得意不得意や特徴まで分かるほど、密に関わらせてもらっています(笑)。
お客様の工場で「○○できる人いない?」という話になって、隣町の職人さんをたまたま僕が紹介したり…仕事というより”おせっかい”で、人と人とをつないだりもできています(笑)。
絵を描くのが好きで、高校も美術の先生を慕って進学し、大阪芸大でも油絵を専攻したので、学生としてデザインを勉強したことはありません。
小1の時、漫画家になりたくて絵を描きはじめ、ノートに何十冊と描いていました。ドラゴンボールタッチだったり登場人物に友達が出てきたり(笑)。
漫画家は少し陰湿な感じでモテないと思って、中学で画家志望に転向(笑)。特に目指したり好きな画家はいませんでしたが、絵は好きでずっと描き続けていました。
大学卒業後、家具メーカーさんで「企画室」配属になり、デザインってなんだろう?と、考える機会がめぐってきたのがスタートです。
油絵や日本画は馴染みはあっても、デザインは未知の世界。就職して立体に関わるようになって、機械で切削したり塗装したり等、製作に携わることがとても楽しくて仕方がありませんでした。
絵がなくなった分、ものすごく「モノづくり」に没頭していきました。
大学2年まで、ひたすら「写実」を追い求めていました。
でもある時、「似ている似ていないの、その先を見なさい!」と先生に言われ、異次元とも言える「抽象画」の世界に足を踏み入れることにしたんです。
苦手な「色の世界」にも挑戦し始めると、絵が汚れに汚れて(笑)。その影響で、キャンバスに写実的な線を描かなくなり、新鮮で刺激的な抽象画の世界におぼれて、胃潰瘍になるくらい描きましたね。やったことがないものに興味を感じる節が僕にはあるからかな。
僕が絵を描く時は、主題は特に設けません。
内臓をえぐるような自分の内側との自問自答を続け、その答えを出す時に筆を動かすみたいな感覚。潜水して、限界で上がっていくようなイメージで、その時に描き出します。すごく哲学的な話ですが、外か中、どっち側の宇宙と触れ合うか、みたいな。描いてる最中はフラットなんです。
企画やコンセプトを考えるアプロ―チも、それに近いかもしれません。
はじめはモダンデザインとの出会いです。
最初に就職した古いカントリー家具を復刻する会社では、プロダクトデザイン史に残るような画期的なものは手掛けていませんでした。そこに載るものは、モダンデザインといい、今の会社で作っているものとは全く違うと分かり、退職しました。
ある時、うねりのあるチェストを見かけて衝撃を受けたんです。それは、有名なプロダクトデザイナー五十嵐久枝さんのチェスト「TANGO」。こんな独創的で魅力的な家具を形にしたメーカーが静岡にあるなんて!と衝撃を受け、すぐに電話しました。すると、デザインの募集はないが製造工はある、と聞いて即応募(笑)。今までの作り方とは180度違うモダンデザインのモノづくりはとても新鮮でした。
そこから「モノづくり」をどんどん追求し、機械製作ではなく敢えて、カンナやノミを使う会社で働いたり、実直なモノづくりを実践する職人気質の会社で働きました。中でも、iターンした北海道の会社では、価値観が変わるほどの環境の違いや技術に圧倒されました。
次に、起業ですね。
30歳手前で帰静してうろうろしていたら、静岡クリエイター支援センター設立を聞き、受かったら起業、落ちたらグラフィックデザインの会社に就職しようと応募したら受かって独立。名刺代わりの作品を作るところからはじめました。何になるのかを分からないモノを作るところからがスタートでした。
今までのどの出逢いも印象的で、大切で、ドラマティック。油絵の大学の先生も一社目の社長も北海道の会社も。転機があるごとに出逢いにも恵まれていました。
特に明確な基準やNGはありません。もしかしたら、自分の中に制限を設けないことがこだわりなのかもしれません。それもありかなと、何でも受け容れることができるタイプなので。
ただ、自分の「好き」や「感覚」は大切にしています。
この照明「Tearable Lamp」の発端は、卵の紙パックや家電の梱包材でした。パルプモールド成形が生み出す表情が好きで、紙の特性をプラスすれば、破くと好きな形にできて面白いかな、という感覚で作ったんです。
商品企画の段階で面白くなくても、もしかしたら企画の切り口やコンセプトを変えれば面白くなるかもしれないと思っています。僕は、デザイナーというより企画をする人かもしれません。 あ、あとは電車の中吊り広告(笑)。言葉は企画の切り口にしやすいので、コピーで揺れることが多くて、ずっと見てしまいますね。
Tearable Lamp
目の前のクライアントさんのテンションが上がる切り口がひとつ見つかった時ですね。もう、これしかない!みたいな。
僕自身、自分で自分の開発商品を販売することがありますが、ユーザーにこの商品が受け容れられて届くかもしれないという「期待」がイメージできた時もそうです。
例えば、「More than words」は、封筒をもじもじいじっていたら、この口ができて、思わずプッて笑ってしまったんですが、その製品を通して話が膨らんだり、テンションがあがる様子をイメージできた時は楽しいです。
「tote」は、オリジナルサンダルを作りたいという、川根のサンダルメーカーさんと一緒に作ったもの。「ピクニックみたいな気持ちになるサンダル」というコンセプトからスタートしましたが、そのメーカーさんはつま先の型押し機を持っていなくて。開いたつま先を閉じる方法を模索し、紙を切り、パターンを起こして試作した時、トートバッグの下のマチの部分が思い浮かんだんです。作ったら、その表情が良くて。
このように問題解決ができた時も、楽しいと思える瞬間ですね。静岡はモノづくりは何でもできるので、作りたかったものを作ることができて、ビジュアルが僕の好きなものに近づいていく時も、たまらない瞬間です。
More than words
tote
何がしたいかわからない人は、やってて楽しいことをまずイメージしてみてはどうでしょう?
必ずしもどこかに通わなければいけないというわけではないし、きっかけは、周りとの縁や人にもあると思います。
小さな自分の「好き」を見つけることかもしれません。
自分が好きでなくても、相手が喜んでくれることでもいいと思います。コミュニケーションの中でやりたいことを見つけてもいいかもしれません。
私自身、就職活動の時に何を仕事にしたいかが分からなくて、兄に相談したんです。そうしたら、何をやっている時が一番楽しいんだ?って言われて、分かりました。
そして、始めたい人は行動してみる。
それだけですね(笑)。
プロダクトという言葉には馴染みがないかもしれませんがプロダクト=道具だと思っています。
日常にあふれている身近なもの、道具全般=プロダクトデザインです。このペンもそう。道具は、体の一番外の皮膚の次のもので、このままでは文字が書けないのでペンを持ちますし、このままでは熱い珈琲を飲めないのでマグカップを持ちます。
身体に非常に近いもので、とてもやりがいがありますね。
そして、僕の「知りたい」や「何でもやりたい」を叶える道具なのかもしれません。そして、モノづくりの職人さんと密につながるきっかけでもあります。
プロダクトデザイナー 花澤啓太さん
mag design labo. 代表
Timeless Gallery & Store 代表
プロダクトデザイナー
アートディレクター
プロデューサー
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