スペシャリストインタビューアレックスベネットさん


透き通ったグリーンの瞳。

道具をていねいに扱う心優しいカヤック職人は、日本に魅せられたニュージーランド人だ。

20キロ超のカヤックをヒョイッと担ぎ、慣れたオールさばきで海に漕ぎ出していった。ツルツルの水面をやわらかく掻き分け、カヤックが進んでゆく。

アレックスさんの心を映すかのような早朝の穏やかなベタ凪の中、鳥たちの食卓のそばを、その1艇はスイーッと通り過ぎていった。

逆らわず、従い、流れる。でも方向はぶれない。

やわらかいけど意思を秘めたその瞳は、情熱をたたえた男の目だ。

ひとりでカヤックを作り上げるその職人は、静岡に魅せられて今は清水に住んでいる。

 

 

 

現在の活動を教えて下さい。

 

SHINOBIを抱えて運ぶアレックスさん

カヤックの製造が主で、あとはセールスやメンテナンス(販売したカヤックのアフターサービスと工場のメンテナンス)、エンジニアリング( 開発) 、製造部門の管理を行っています。

ここは工場兼ショップなので、日本人スタッフ橘さんがいない時は僕がセールス(販売)を行うこともありますが、常駐してここでずっとカヤックを作っていますね(製造はひとりで全て行う)。

 

日本語は、日本人の前工場長と話しながら勉強しました。エンジニアとして来日し、日本は4年目です。

前工場長のいた法人とは別のコンセプト

「もっと手軽にリーズナブルに誰にでもカヤックを!」

を掲げて昨年3月立ち上げたのが、フィッシングカヤックジャパンです。

 

 

 

カヤック製造に携わるようになったきっかけ教えてください。

 

型の内面を点検するアレックスさん

17歳の時、父がハワイに行ってシット・オン・トップ・カヤック(上に座って乗るタイプのカヤック)を買ってきたのを見たのが、最初のカヤックとの出会いです。

セイリング、シュノーケリング、釣りやサーフィン…いろんな海のレジャーを経験してきましたが、「この船、イイ感じ!」と感動したのを覚えています(オーストラリアの実家にいまもそのカヤックは現存)。

父のマイクは5歳の時から木の船やヨットは作っていましたが、カヤック作りは全く初めて。

当時、ニュージーランドでは新しいアイデアでしたが、父の手伝いをして作ったのが初めてのカヤックメイキングでした。

 

23,4歳の時、カヤックの機械や型、デザイン等、エンジニアリングを父と勉強しました。ハワイのデザインはFRPでしたが、僕たち親子はプラスチックでデザインを起こしました。

 

新しいデザインに新しい形、型、素材。すべてが新しい、ニューカヤック。26歳の時、ニュージーランドからオーストラリアに移住してからも3年間ひたすら製造を行っていました。

 

 

 

来日のきっかけを教えてください。

 

父親のマイクさんはバイキングそのもの

ニュージーランドからオーストラリアに移住し製造に明け暮れた後、ブリスベンでショップをオープンして4年間セールスをしていました。

そんな私に「日本行く?」と、父が唐突に言ったんです。

 

当時、日本の情報はとても少なくて、未知の世界、ミステリー、everything is new の国でした。

僕は言葉はわからないけど、カヤックなら分かるので大丈夫だと思いました。

ライフスタイル的にも面白い場所でチャンスもあると感じましたし、カヌーやシーカヤックはあっても、カヤックフィッシングやシット・オン・トップ・カヤックは、きっと日本にとっては新しいものだと思ったことと、私自身、新しいチャレンジをすることが好きなので、この父の一言で来日を決めたんです。

 

実際に来てみて、日本が大好きになりました。もうオーストラリアには帰りたくないですね(笑)。犯罪が多いオーストラリアとは比較にならないくらい日本は安全で、ホスピタリティも素晴らしい。

特に静岡は日本の中心に位置し、雪は降らないし気候的にも温暖で、何より駿河湾が好き。食べ物も美味しいし、自然も豊かでランドスケープも魅力的です。僕は大都市が苦手なので、もし東京に行けばと限定されていたら、日本には来なかったでしょうね(笑)。

 

 

 

ご自身のルーツを教えてください。

 

アレックスとマイケル親子には、家系図とその「手」が証明するように、バイキングの血脈が受け継がれている。*「手」=デュピュイトラン拘縮という手のひらにこぶができる疾患。ヨーロッパではバイキングの血脈の男性が受け継ぐ疾患だと言われている。

手の形が血脈をしめす

私の妹が調べたところによると、先祖に関する資料は923年にさかのぼります。デンマークやアイルランド、イギリスにルーツがあって、1840年、3世代前の先祖がイギリスからニュージーランドのウェリントンに移住し、最初の灯台守となった記録があるそうです。

 

アイルランドの首都ダブリンは通称バイキングタウンと言われていますが、そもそもバイキングとは、デンマークやスウェーデン、ノルウェイなどスカンジナビアの「海の民の集団」という意味であり、略奪行為や海賊といった意味合いは「パイレーツ」になります。

 

私の父は「red hair and red beard (赤い頭髪に、赤いひげ)」をたくわえ、北欧人形にあるような身なりです(笑)。

*3つ目の質問の写真を見れば一目瞭然!

ニュージーランドでは、2歳くらいで水泳を始め、5歳でセイリング、13歳でサーフィン、20歳くらいでスキューバーダイビング等、ライフスタイルに常に「海」があります。

船は釣りやセイリングを楽しむために乗るものであると同時に「作るもの」でもあるとみんなが思っています。

 

 

 

印象に残る出逢いを教えて下さい。

倉沢にてカヤックをするアレックスさん

 

私の父マイクです。

 

彼は子供のころからずっと僕のヒーローです。

海のことなら何でも知っているし、海のアドベンチャー等いろいろな経験をさせてくれました。もちろん船の作り方も。

チャレンジする精神があり、一番尊敬する存在です。

そんな父に「日本に行くか?」って言われたら、行きますよね(笑)。 

 

あとは、スキューバーの発明者であるジャック=イヴ・クストー(Jacques-YvesCousteau)と、ヨットマンの ピーター・ブレイク(Peter Blake)ですね。海のことはこの2人からも学びました。

クストーには会ったことがないのでビデオででしたが、ピーターには一度だけ会ったことがあります。長いヨットレースが得意なセイラーで、世界一周レースで優勝した実力者ですが、アマゾンを冒険中に亡くなってしまったんですね。彼はニュージーランドでナンバーワンの有名人です。 

 

 

 

カヤックの作り手としてのこだわり、大切にしているものを教えてください。

 

型の嵌合に注意を払うアレックスさん

誰でも簡単に乗れるようにと、僕の経験全てを詰め込んだものが、バイキングカヤック。

 

その人の好きなカラーリングで成形し、シェービングしてパーツを付けてゆくのですが、心を込めて1艇1艇オーダーメイドで作ることですね(オーダー後5~10日程で納品)。

 

日本で唯一のカヤックメーカーとして、最近では日本の釣りシーンに特化したジャパンモデル「忍―SHINOBIー」も開発しましたし、アウトドアライフとしてのカヤックの楽しさを伝えていきたいです。

 

カヤックを始めると、「楽しい!気持ちいい!」という感覚だけがはじめのうちは強いと思いますが、自然に触れ合うことで徐々にその先にある海のコンサベーション(環境保全)にも関心を持ってもらえるように努めています。

 

カヤックは人と海をつなげるツールであり接点。僕はカヤック作りを楽しみながら、カヤックを通してたくさんの人に海と触れ合う楽しみを感じでほしいと思っています。と同時に、自然と関われば、微細であれ、私たちは何かしら影響を与えているものだということ、環境に配慮して遊ぶ叡智も伝え続けていきたいです。

 

自然保全を考えながらアウトドアライフと楽しむことで、人々の生活の質や考えは向上し、カヤックを通しての「improve people’s lives」可能となるのですから。

 

 

 

何をしているときが一番楽しいですか?無になる時はいつですか?

 

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海は僕にとって“家”なんです。

海にいると一番落ち着きます。

だから、海に潜って水の中にいると、すべてを忘れて無になれます。今朝みたいに、早朝でベタ凪、サンライズが美しい海なんて最高ですね!

僕は朝型の人間、morning personなので、早起きしてカヤックに乗ってフィッシングやシュノーケリングをするのが至福の時。海の中では完全にひとりの世界ですから。

僕の前世はきっと、海の生物ですよ(笑)

 

 

 

 

 

夢を教えて下さい。

 

SHINOBIは釣り人の羨望を集めている

大好きなこの日本に、ずっと住み続けることです。

そしてファミリーが欲しいです。

今はそれが夢。

僕の妹は写真に長けていて、弟はステージアクターとして活躍しています。父はカヤックメイキング。

でも僕が一番、海の環境保全に対する意識や海への関心があると思っています。

僕は大好きな場所である日本で、このビジネスを成功させたいですね。

 

 

 

 

 

何かやりたい、始めたいという方にメッセージをお願いします。

 

 

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  Just simple ! 

  (答えはカンタン!) 

  You can do it ! 

  (やればできる!)

  These kayak anyone can do it ! 

  (うちのカヤックなら誰でも乗れますよ!)

 

 

 

 

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PROFILE

カヤック職人・ジフィ―マリーンジャパン株式会社代表取締役社長  

アレックス・ベネットさん

1974年生まれ。ニュージーランド出身、ジフィーマリーンジャパン株式会社代表取締役社長。

 

幼少時より「海」の教育を受け、3歳で水泳を始める。「船は乗るものでもあり、作るもの」と17歳で初めてカヤックを製作。北欧の民バイキングの血脈を受け継いだカヤック職人でもある。日本に魅せられ、来日4年目の昨年、駿河湾内に位置する清水に工場兼店舗「バイキングカヤックジャパン」を構え、海外はじめ日本各所からオーダーメイドを受注している。

 

Official web site VIKING KAYAK(バイキングカヤック)