vol.21 映像ディレクター 水品一彦(みずしな かずひこ)

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静岡にいて、刀を研いで、世界にギラッと発信すればいい。独特の表現力で、自身の世界に惹きこむパワフルな水品さん。トムとジェリーが大好きだった少年が、世界に称賛される映画監督となるまでに、どんな経験をし、何を感じてきたのか。映像に対する想いは誰よりも深く、やさしいものでした。

 

 

現在の活動について

水品一彦さん-画像

YouTubeをベースとした行政の観光PR映像の制作や、企業のCM・VP・Web動画コンテンツの制作、映像制作の講師などが現在の主な仕事です。また並行して、オリジナルのショートフィルムやアートフィルムの制作も行い、世界へ発信しています。

 

映像ディレクターを志すきっかけになったものは?

物心がついた時からとにかく映画が好きで、それまではただ漠然と観ていただけだったんです。ところが高校一年のある日、無理をしてやっとの思いで観に行ったある映画がとてもつまらなかったんです。映画館を出て、ふと夜空を見上げ、そのときに「僕だったらこう撮るのに」と思ったのがきっかけですね。高校を卒業してすぐに、映像を学ぶためアメリカに渡りました。

 

 

映像を制作する上で重要だと思うものは?

僕を表す分かりやすいエピソードがあります。フィルムスクール時代、「映画を作るにあたって、何が一番重要か?」という先生の質問に、ほとんどの生徒は「good actor=よい俳優」「good script=よい脚本」「good crew =良い技術スタッフ」などという答えだったのですが、僕の答えは「good luck=よい運」でした。運は必要です。よい俳優、よい脚本、よいクルーが揃っていても、運がなければよい映画は作れない。撮影しているとき、不思議と自分が撮っているという感覚がありません。どう上手く表現したら良いのか難しいのですが、何かに撮らせてもらっているという感覚がいつもあるんです。良い映像を撮りたいと言って撮れるものでもないんでしょうね。そこには運とか日々の行いとか、きっと何かあると思うんです。

 

 

水品一彦さん-画像

ご自身の映像の特色は?

「間」ですね。作品中のくぼみとでもいうのでしょうか。間が独特で、あと映像の質感や空気感がいいと言われます。撮影する時に画コンテはほとんどありません。どういう感じに仕上げたいかと広義に考えて撮影しています。頭の中にひとつのアイディアを留めておきつつ、それ以上のひらめきがあった場合、その時の空気で変えたりします。その方が実際の現場でアジャストしやすいんですよ。決して怠慢ではなく、極限までいい作品を作りたいという想いがありますから、詳細な設計図はなるべく描かないようにしています。そして、撮影してきた素材を編集し、その映像に合うオリジナル音源を加えてひとつの作品に仕上げていく。意識はしていませんが、その作業の過程で自分だけの感覚の間が作られるんでしょうね。

 

映像に対するこだわりは?

撮った素材には極力加工を施さず、けれん味のない映像作品を制作することを心掛けています。映像の基本は、それぞれのカットが1枚の写真として確立されているというのが理想。それらが動いて、シーンを編集することで構成ができる。もちろん、起承転結は作りますよ。そして音楽をつけていきます。映像は観ている以上に耳で聴いている部分が大きい。「映像を聴く」ということですね。特に現場で収録した水の音にはこだわっています。自分が水品だからなのか、体の約70%が水だからなのか。。。人間にとって、とても敏感な音だと思います。映像に関しても観ている人がぞくぞくっとする、そのときだけ時空がねじ曲がるような感覚をおぼえてもらえるようにと考えています。

 

水品さんの夢とは…

水品一彦さん-画像

時代の変化とともに映像の世界も変わってきました。そして、映画のあり方も変わると思うんです。今後、映画も通信=インターネットとの融合にシフトしていくと思っています。極端に言ってしまうと、視聴する場がオンデマンドか映画館。しかもシネコンではなく、地域に密着した新たなミニシアター文化が形成されていくかもしれません。個人的には、その場に映画を作った監督本人がいて作品について観客と対話する。。。そんな映画館を作りたいですね。僕は、「ジャパンローカル」という考えを持っています。世界から見れば、東京・大阪・静岡…みんなローカルなんです。世界の舞台に出ると、「カズ ミズシナ フロム ジャパン」と紹介されます。ですから場所とかあまり関係ないんです。ただ、一人の日本人という意識はいつも持っています。その昔、日本は映画では先端をいっていたのに、今では世界的な位置付けが低くなっていますので、その意識は年々強くなっていっています。

 

 

一般の方に伝えたい撮影のコツは?

「思いやり」です。その映像は、何のために撮っているのか?誰に見せるのか?誰かに見せたいと思って撮るとき、その映像を見る人に対する思いやりが一番大切だと思います。被写体と視聴者の間で、介在するのは撮影者のあなたしかいません。そこには、思いやりという名の演出があって成立する世界なんです。それから俯瞰(ふかん)すること、広い目で見ることですね。カメラから目を外して見てみることが大切。まずロケーションの雰囲気を感じることだと思います。それと、よくある決定的瞬間映像。あれはもう映像の偶発性ですね。不思議な運です。その時その瞬間にたまたま撮影していたってことだけで、そのメカニズムは僕にもわかりません。でもそういう偶然の力を信じるのは必要で、それって一種の才能だと思う。「もってる」のは自分への思いやりってことでは?僕はそんな感じがします。

 

 

読者へのメッセージ

僕は、やっぱり行きつくところは「教育」だと思うんです。セミナーや講義で「今の映像物はテロップを出し過ぎ、出演者が言葉で説明し過ぎ」と言うと、特に年配の方は頷いてくれます。言葉で表せない感情や情景もあると思うんですね。もっと映像で表現すれば素晴らしいのにと共感してくれます。当たり前の現実を別の角度からも見てほしい。理解や解釈の幅を広げて、自分の目線を少し変えてみることをしてほしい。これは老若男女、いくつになっても遅いってことはないですよね。映像の授業をしていると、逆に教わることもすごく多いから自分にとっても価値があることだと思っています。僕には想像もつかないようなアイディアや、たくさんのピュアな心に出逢うこともできますし。そういう共感のふれあう場、フラットな環境がならいごとの理想だと思います。

 

 

ご自身にとって映像とは

水品一彦さん-画像

映像を作ることは、僕の天職。才能が少なからずあるのは自分でも早い段階で気づいていました。「いいですね、好きなことをやれて。」と言われることがありますが、撮影前日は緊張で眠れないこともあるし、いつもプレッシャーはあります。映像は僕にとって好きなこと、嫌いなことの二者択一で言えるほど簡単なことではない。何か使命に近いものだと思っています。作品が完成すると僕の手を離れるから、そこから先の評価は観る人が決めること。一生懸命作った作品を「すごくいいですね」って言ってもらえるのは本当に嬉しいことなんです。人をあげつらったり、ののしったりするのはもうやめて、世界中の人々が「これいいね」って共有する時代へ向けて、これからもひたむきに映像をつむいでいきたいですね。

 

 

 

PROFILE

水品一彦 みずしなかずひこ
2003年ニューヨークフィルムアカデミー卒業後、米国ロサンゼルスを拠点にグラフィック・PV・ショートフィルムの制作活動を行う。2011年クリエイティブオフィス「株式会社 田方映像」を設立。熱海市や伊豆市など、地域の映像作品を世界に発信。現在、映像ディレクターとして幅広く活動中。

【受賞歴】2008年 第9回イギリス フィルムストック国際映画祭短編部門 公式ノミネート『CYPHER』。2012年2月ショートフィルム『I DON’T NEED A GOLF COURSE』がマレーシアで開催された第1回 クアラルンプール国際短編映画祭のCSR部門で準グランプリを受賞、他多数。


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