vol.20 塗り下駄アーティスト 鈴木千恵(すずき ちえ)


「自然体」「自分らしさ」を大切にし、誰もやっていない
「塗下駄アーティスト」を生業とする鈴木千恵さん。自分の「直感」を信じる一方で、
どうすれば周りの人に楽しんでもらえるか、
相手にメッセージを伝えられるかを常に意識して作っているそうだ。
左右の下駄が揃って初めて一つの絵となる彼女独特の塗下駄は、
同じように自分と相手の2つの気持ちが揃って初めて完成するのだろう。

 

現在の主な活動は?

鈴木千恵さん-画像

ここ3年ぐらいは、夏に1か月ほど東京の百貨店で新作展示会を開催して、そこで注文を頂き、秋冬に制作するというサイクルです。そのほか静岡県内などでも展示会をやったりします。お客様にお渡しできるのは、注文から早くて1~2か月。長いと3~4か月。注文が殺到した時は1年半も待って頂いたこともありました。展示品を欲しいというお客様もいらっしゃいますが、やはりご自身の好み通りに鼻緒を選んだりしたいお客様が多いですね。展示会期間中は、私も会場に行って、お客様の要望を直接お聞きします。

 

 

 

鈴木千恵さん-画像

下駄の世界を選んだ訳は?

靴の会社に勤めていた時、もっと靴作りを学びたいと思いイギリスの専門学校まで見学に行きました。行ってみるとブランド品のお店に日本人のお客さんがいっぱい。その時思ったんです。私はイギリスという「ブランド、ステイタス」が欲しくてここまで来たのかな?純粋に靴作りをやりたいのなら日本の下駄がある。その時ビビッと来ちゃいました。下駄なら、昔から好きだった絵も描けるし一石二鳥。イギリスに渡ってほんの1週間ぐらいで決めちゃいました。

 

 

塗下駄作りを始めた頃は?

駿河塗下駄の師匠にお願いして、会社勤めをしながら週末だけ塗下駄作りを学びました。当時は私のように週末だけ作りに来る人が何名かいて、修行というより教室って感じでしたね。10年ぐらいして、森英恵さんと同じ冊子に偶然作品が掲載された後、主催イベントに出品しないかって森英恵さんから声をかけてもらったんです。それで、もっと作品作りに打ち込まないとダメだと思い、会社をやめて塗下駄に専念し始めました。ほんの5年ほど前ですかね。

 

鈴木千恵さん-画像

鈴木さんの作品は独特なデザインですね。

確かに、漆を使う一般的な駿河塗下駄とは違います。私の作品は、日常で履く下駄の他に展示用もあります。森英恵さんに声をかけてもらった時も、履けなくていいから楽しいものを頼まれました。私が作る面白い下駄で、お客さんが楽しい気持ちになれればいいなと思っていつも作っています。私自身、自由な発想で自由にやりたいって気持ちが強いのでピッタリです。「やり過ぎじゃない?」って周囲がびっくりした作品もありましたね。

 

 

 

実用下駄と展示用と作り方の違いは?

基本的には同じですね。ただ私が共通して大切にしていることは、人にインパクトを与えられるか、楽しい印象を残せるかということです。あとは下駄一つ一つに、「物語=ストーリー」があります。そうすれば最初に見た時とテーマを知った後では、見え方が違うでしょ。二度おいしいというか、もっと楽しんでもらえるかなって思います。童話など昔からある物語をテーマにすることもあれば、自分でテーマを作っちゃうこともありますね。そっちの方が多いかな。

 

アイデアはどう生み出しているの?

普段から意識して勉強やメモはしません。家族や友人にはよく注意されますが。私らしく自然に生活して、いざ作ろうとペンを持つと自然といろいろなアイデアが出てきます。それをどんどんスケッチしていく感じです。キャラクター雑貨も買いますが、自分が純粋に好きだから。アイデアのためではありません。だからなのか、私の塗下駄には決まったデザイントーンがないかな。自分の特長について悩んだ時期もありましたが、今は、それも自分らしさだと思っています。

 

 

ならいごと.jpの読者へのメッセージは?

鈴木千恵さん-画像

『好きこそものの上手なれ。』興味があればすぐやってみる。続けていれば必ず最後に結果が出る。私はそう思います。私も14年ほど前、イギリスに行ったけれど「やっぱり日本の下駄だ」と1週間で決めて、すぐ下駄作りを習い始めました。私はもともと「やるぞ!」と思ったらすぐ行動に移すタイプでインスピレーションを大切にします。何かを始めるのに年齢は関係ない。ぜひ皆さんも好きことを見つけたら、すぐ始めてみてはどうでしょう。

 

 

 

PROFILE

鈴木千恵 すずきちえ
静岡県静岡市生まれ 静岡市在住。
1998年、静岡市伝統工芸技術秀士の佐野成三郎氏に弟子入りし、静岡の郷土工芸品である塗下駄の世界に入る。2006年、ミラノのファッションウィーク期間中に開催されるUPSIDE(アーティスト部門)に出品。2008年、森英恵氏のすすめで東京・表参道のオープンギャラリーに出品。2009年水戸芸術館で開かれた「手で創る―森英恵と若いアーティストたち」に出品。2010年、高島屋全国6店舗巡回展。


すずきちえさんのサイト:http://chee-lab.com