vol.18 調香師 新間美也(しんま みや)


本場フランスを拠点に、自身のブランドを立ち上げ、
フランスやロシアのセレブたちに愛される香水を作る調香師、新間美也さん。
あまり馴染みのない調香師という仕事との出会いと魅力、そして日本人としての香りに対する思いとは。
フランスと日本を往復する忙しい日々を送っているとは思えない、穏やかで優しい語りから、
彼女の香水が愛される理由が感じられた。

 

 

今の主な活動内容は?

新間美也さん-画像

メインは、自分のラインと別ブランドそれぞれの香水を作ることです。あとは調香の講座と書籍など執筆活動です。実際に香水を作るのは、香料などの材料が整っているフランスのアトリエで行っています。香水瓶やパッケージデザインなど商品全体のプロデュースをします。調香の仕事自体は、ずっと嗅いでいると嗅覚が疲労するので、一日中はできません。私は毎朝、食事前に香りのチェックをします。食後では食事のニオイが気になりますからね。調香に集中するために、できるだけ周りの匂いを排除することが重要です。

 

 

調香師という道を選んだわけ

別の仕事に就いていた頃に、ちょっとモヤモヤしていた時期があって、そんな時フランスの調香師のインタビューを雑誌で見つけました。そこに書かれていた、「調香の仕事は、シンフォニーを奏でるのに似た芸術活動である」という言葉に衝撃を受けました。香水にはあまり興味がなかったのですが、急に身近なものに感じられて。もともと趣味で作曲も少しやっていたので、香りなら今の自分を出せる、表現できるんじゃないかなって。なんだか目の前が開けた感じがしました。

 

新間美也さん-画像

調香の魅力は

最近は自己表現というより、他人が求めるものをできることに魅力を感じています。様々な芸術や文化を見たり感じたり、旅行をしたりすることも、香水を作るのには重要です。パリで素晴らしい舞台公演があればすぐに飛んでいく。そんな生活を送るフランスの調香師に憧れていました。また目に見えない香りを組み合わせて、目に見えない香りを完成させるには、自分を信じ、厳しくなければ出来ません。とても難しい仕事だと感じています。

 

 

印象に残った出会いは?

香水の文化がまだまだ未熟な日本から、本場フランスに何も分からず体一つで行った私を心よく受け入れてくれた調香師学校の先生です。元来、調香の世界は閉鎖的で男性社会です。そんな社会をもっとオープンにして、女性でも入れるようにと誰でも調香の勉強ができる学校を作った女性でした。学校初の日本人ってこともあり、授業以外の時間でもいろいろ経験させてくれましたし応援してくださいました。現役の調香師など様々な人々を紹介してくれたのも彼女のおかげです。

 

フランスと日本と、香水に関する意識の違いは?

新間美也さん-画像

フランスで香水は生活必需品です。毎朝シャワーを浴び、歯を磨く感覚で、香水をつけます。子供が14歳の誕生日に、親から香水をプレゼントすることも多く、子供用香水も沢山あります。香水は子供の頃から身近なものです。日本では、オシャレの時や体臭を隠すためのプラスアルファという認識が強いと感じます。確かにフランスでも、公の場所ではドレスコードのようですが、香りは自己アピールの手段です。毎年流行の匂いはありますが、ずっと同じ香水だけを使う人もいます。その匂いが自分表現なのでしょうね。

 

 

香水を作る工程は 

まず、感じ取る感覚を研ぎ澄ますための、匂いの無い環境を整えることが大切です。自分のラインを作る場合は、最初に表現したいことを短い詩にします。そしてイメージを鮮明にしながら、時代背景を加味し、だんだん具体化していきます。数種類の香料をセレクトし、混ぜたらどんな香りになるか、頭の中で香りの編集をしていきます。それから初めて実際の調香作業に入ります。実際に香りを嗅ぐまで時間をかけて綿密に作り上げていきます。外部からの依頼の場合は、さらにマーケティング的要素も取り入れます。

 

今後の目標・夢は 

私が調香師になった10年前は、知らない人が多い職業でした。ここ最近ようやく日本でも調香師になりたいと考える若者が出てきたように感じます。そんな若い世代に私の経験を伝え、調香師に育てたいと思っています。あとは香水文化をもっと日本に根付かせたいですね、フランスのように。香水の付け方が分からないという人もいますが、決まりなんてありません。まずは、好きな香りを気軽につけて、楽しんでもらいたいです。


 

PROFILE

新間美也 しんまみや
島田市出身。京都外国語大学卒業後、1997年パリにある香水の学校「サンキエームサンス」でフランスを代表する調香師モニック・シュランジェ氏に師事。パリの高級デパート“ボン・マルシェ”に認められ、1999年にブランド「Miya Shinma」を立ち上げる。2003年サンキエームサンス・ジャポンを設立。香りの基本から香水作りまでを教える、日本を代表する調香師。エッセイストとしても「パリのレッスン」「恋は香りから始まる」などの著書がある。


Miya Shinma:http://miyashinma.fr/
取材協力 磐田市香りの博物館:http://www.iwata-kaori.jp/