vol.15 静岡大学客員教授 情報意匠論 平野雅彦(ひらの まさひこ)


ブログ、Twitter、Facebookを自由に使いこなす一方で、
情報収集源は、人との直接対話と古典文学から学ぶという。
大学の授業や企業向けプレゼンの資料はできるだけ手書きで作る。
「伝える」ことの本質を見極め、
「時代が進化し、“伝える”手段は変わっても、人が誰かに伝えたい“思い”は変わらない」と言い切る。
今回は、若い世代とともに新しい未来を切り開くアイデアを、常に探究し続けている大学教授、
平野雅彦さんの「情報論」の本質に迫った。

 

 

大学ではどんな授業を?

平野雅彦さん-画像

企業や団体から、現場で実際に起きている課題を出してもらい、その解決策を学生たちが考え、企業にプレゼンテーションします。そして採用されれば、学生と一緒に実作業を進めていきます。課題によって解決策が違ってきますので、提案するものは、広告表現であったり、イベントや学問的アプローチであったり様々ですね。採用されることももちろん重要ですが、学生たちが大学で学んできたことが、現時点でどれほど実社会の役に立てるのか、また社会人と接して学んだことを、今度は大学でどう生かせるのか、を考え、実践することが一番の目的です。

 

 

授業のポイントは?

新しいアイデアを生み出したり、現時点でベストな提案を構築するには、膨大な量の「情報」が必要です。そして、それらの情報を得る有効な手段が、沢山の書籍を読むことと、いろいろな人と対話をすることだと思います。私は細かい指示はしません。意見を求められた時に少しアドバイスする程度。学生には、その提案が本当に相手に伝わるのか、どう表現すれば伝わるのかを、ものすごく時間をかけて丁寧に考えてもらいたいからです。

 

どんな書籍から情報を得るのか?

平野雅彦さん-画像

私の場合は、古典です。多くのことは古典から学べると考えます。古典とは「古の典(真実、法則)」を識ることです。今の時代、シンプルな答えだけを与えてくれるものが好まれ、物語の翻訳でもストーリーを追うものばかりがもてはやされます。たとえば、「ドン・キホーテ」や「西遊記」などは、実はあらすじの間に膨大な量の詩が挟み込まれ、そこには登場人物の考えや思いが詠まれています。あらすじだけを読んでも肝心な心の機微が分かりません。そもそも古典を読み込むにはそれなりの時間もかかるのです。しかし、それ以上に得るものがあるはずなのです。だからこそ何百年も何千年も読み継がれているのです。

 


 

平野雅彦さん-画像

では、なぜ対話が重要なのか?

「対話」することで、人はいろいろ面白いことに気付きます。ソクラテスは書物を一冊も残していません。残っているのは弟子がまとめたものです。ソクラテスは、書物を嫌っていたのです。それは硬直化した言葉を信じていなかったからです。人と対話をしていると、「そういえば思い出した!」ってことが度々起きますね。その思わぬ方向へと導かれることが大切なのです。対話は、大学の授業だけでなく、実社会の様々場面でも重要です。ライブな対話こそ、本当のコミュニケーションなのです。

 

 

ご自身、情報収集で気を付けていることは?

一言でいうと「アナログ」です。答えに到達するまでの経過で得られる、手触りや匂いなどの身体感覚とでもいいましょうか。今の時代は、インターネットによってすぐ答えが発見できます。それは逆に、その過程や周辺にある情報を見捨てているとも言えます。アナログは、一見無駄な時間をかけて遠回りしているようですが、実はその答えの周辺にある重要なことを再スキャンしているのです。つまり答え以上に大きな答えを獲得できるのです。

 

影響を受けた人はいますか?

漫画家の手塚治虫さんです。小学生の頃は漫画を描くのが大好きで、手塚さんに自分の描いた漫画を送ったら、返事が届いたんです。返事には「平野君。キミの漫画はさっぱり分かりません。まだまだですね。漫画が上手くなりたいなら、漫画以外のことをしなさい、お芝居や映画をいっぱい見なさい」と書かれていました。そのときには意味が全く分かりませんでした。のちに、様々な経験をすることによって作品にそれらが反映されるというメッセージだと気づきました。コペルニクス的展開とでもいいましょうか。改めてすごい人だと感じましたね。

 

ならいごと.jp読者へのメッセージ

平野雅彦さん-画像

教える側の先生へのメッセージになりますが、生徒にとって「わからない存在」でいてください。わからない存在とは、常に何かを考え、何ものかに立ち向かっている状態をいいます。それが先生の魅力につながります。教室で、HOW TOだけ教えていたら、すぐに生徒はいなくなります。既にネットや本に書かれていることをもったいぶって教えてもダメです。そのためには、先生も色々なことに興味をもって常に学ばないといけません。もう一つ大事なのは、生徒の言葉にきちんと耳を傾けることです。それは、習い事以外のことを共有することです。「共感の連鎖」ということです。それによって自然と生徒との固い絆ができるでしょう。

 

 

 

PROFILE

平野雅彦 ひらのまさひこ
静岡市生まれ。図書館や博物館の立ち上げ、ブックアートギャラリーの企画・運営、出版、企業のキャンペーンやキャラクターデザイン、ブランディングなどの企画に参画。講座・講演、パネルディスカッションのコーディネーター、アート作品・ロゴマーク・キャラクター・広報誌・キャッチフレーズなど各種コンテストの審査員多数。テレビやラジオのコメンテーター、NHK本の紹介コーナーなどにレギュラー出演。
日本新聞協会賞、ACC賞、静岡新聞広告賞(3度グランプリ、読者が選ぶ広告金賞・銀賞ほか)など広告賞多数。国立大学法人静岡大学 人文学部 客員教授。言語文化学科「情報意匠論」では、多くの学生プロジェクトをおこし、数々の賞を受賞している。


平野雅彦ホームページ http://www.hirano-masahiko.com/

平野雅彦ブログ http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1636.html