vol.10 邦楽囃子方 福原鶴十郎(ふくはら つるじゅうろう)


鼓を構え、歌舞伎舞踊『娘道成寺』の一節を披露する鶴十郎氏。
凛とした空気の中、かけ声とともに勢い良く放たれる「ポン!」という音に息を飲む。
演奏が終わり、緊張する取材スタッフを舞台上に手招きすると、
「鼓打ってみてください。ぜんっぜん大丈夫ですよ!」のひと言で場の雰囲気を和らげてしまう。
純邦楽、代々受け継がれる日本伝統芸能の道。
興味があっても触れる機会の少ない世界から福原鶴十郎氏はやさしく手をさしのべてくる。
「ぜんっぜん大丈夫ですよ!」と。

 

 

邦楽の世界に身を投じた経緯は?

福原鶴十郎氏-画像

父が邦楽囃子の師匠で、僕が生まれた時から邦楽がそこにあったんですよ。そして、幼少期を過ごした場所が、浜松市元浜町にある母の実家。当時は置屋だったので『牡馬の親子』などの童謡なんかは、芸者さんが僕に三味線で教えてくれたほど「邦楽」は身近なものでした。だから、僕が「邦楽」をやるのはごく普通の流れでしたね。父は鼓の師匠として東京からこの家に教えに来ていて母と出会ったんです。福原流が浜松で教えるルーツはここになります。鶴翔館は、半分勢いの部分もありましたが、今後の活動拠点が必要だと考え、稽古場として僕が建てました。

 

 

ここでの指導内容を教えてください

僕が教えるのは太鼓、大鼓、小鼓で、基本的にお三味線に合わせて打楽器を演奏します。浜松祭りでもお囃子は使いますから皆さんも割と身近じゃないですかね?基本的にここで行うのは「お稽古」ですから、プロを目指すお弟子さんも、趣味で鼓を習いたい生徒さんも、誰でも一緒です。凄くやりたい方、それなりにやりたい方、なんとなくやりたい方、それぞれいらっしゃるので、その方に応じて1回30分間の中でマンツーマンできちっと教えます。でも「練習は嫌いだけど先生は好き」って人もいて、おしゃべりが盛り上がり過ぎちゃって1時間になっちゃう時もあるんですけどね(笑)

 

福原鶴十郎氏-画像

お弟子さんへの指導の際、大切にしていることは?

何回も繰り返したり、字に書いて説明したり、色々な角度からその人に分かりやすい教え方をするように心掛けています。それと、1回ここでやっただけでは緊張もしてますし、大抵分からなくなる。だから、ここでのお稽古をテープに録音してもらって「次までに1回ぐらいは聴いといてね」って渡すんです。家に帰ってゆっくり聴くと「あー!分かった」ということも多いので。それも、聴ける人だけ聴けばいい。

 

 

先生にとって、「邦楽」とは?また、今後の目標を教えてください

まず目標、抱負としては、やっぱり演奏家として、日々努力を続けること。やはり訓練をしないと衰えちゃうんですよね。また、常に歌舞伎の舞台や舞踊などの実戦がないと「舞台勘」が掴めなくなるので、舞台に立つことが必要です。それこそ明日からはテアトルで(市川)染五郎丈と亀治郎丈の舞台があります。「お稽古事」の存在…「教える」ということも特に大切にして行きたい。「人間五十年」ではないですけど、自分がいなくなる次の世代のことを考え、自分の子どもやお弟子さんに、僕が父や師匠、先輩方に教わってきたものを託していく義務が僕にはあります。僕にとっての「邦楽」とは…それを、これから探します。まだとてもその答えを出すまでには行ってないです。40、50歳はまだ若造と言われる世界ですし。まだ出発してよちよち歩きの第1コーナーぐらいですから。これから探して行きたいと思います。

 

福原鶴十郎氏-画像

習い事で先生の鼓を教わりたい
また、芸事を習いたいと考えている人へ

何歳の方でも「やりたい!」「やろう!」って思った時がスタートです。その瞬間こそが一番成長できます。僕がゼロから必ずその人に合ったカリキュラムで教えていくので、ご安心ください。お弟子さんの中には、80歳ではじめた方もいらっしゃいますから!
そして、無理をしないことです。必ず中だるみの時期が来ますが、やりたくない、休みたい時は僕も無理に来いとは言いません。やりたい時は一生懸命、やりたくない時もそこそこやればいい。そうすれば長く続いて、しかも楽しんで、そして上手くなるんです。

 

 

 

PROFILE

福原鶴十郎 ふくはらつるじゅうろう
昭和40年、邦楽囃子・福原流福原鶴二郎の次男として生まれ、幼少より父から邦楽の手ほどきを受ける。十代から歌舞伎公演、舞踊会等に出演。昭和62年には中村歌右衛門丈一行とともに訪ソ歌舞伎公演に参加。平成元年、静岡県浜松市に稽古場『鶴翔館』を設立し、浜松中央検番の師匠となる。平成2年より初代福原鶴十郎を襲名。現在東京に在住、各地で演奏活動をする傍ら邦楽指導と普及にあたる。

 

邦楽囃子
歌舞伎や能、神楽など日本固有の伝統音楽や古典音楽を邦楽(純邦楽)と呼ぶ。囃子(はやし)とはその演奏形態や演奏者のこと。鶴十郎先生の一門福原流家では太鼓、大鼓(おおつづみ)、小鼓(こつづみ)などの打楽器の演奏を専門とする。


福原鶴十郎 公式ホームページ『鼓でPON!』http://ip.tosp.co.jp/i.asp?I=kotuzumi