vol.09 華道家 堀井静香(ほりい じょうこう)


「ずっと…、ずっと一緒…かな。」
これが、「自分にとってのいけばなの存在は?」に対する、華道家・堀井静香さんの答え。
楽しいときも悲しいときも、ずっと静香さんの側にあったいけばなは、
「生ける」から「教える」が加わり、現在は多くの生徒さんの笑顔をつくっている。
みなさんのことはじめを華々しく飾って、2011年「ならいごと.jp」インタビューの幕開けです。

 

 

26歳で先生に!
いけばな自体はいったいいつから?

堀井静香さん-画像

母が龍生派の教授だったので、いけばな自体は本当に物心ついたときから。教授職の免許も本当は15歳で取っていました。それで、正式に教授活動を始めたのが26歳の時、母が教室をやめることになり、お弟子さんが困るし、「じゃあ私が」っていう感じで…。

 

 

堀井静香さん-画像

教えることについての難しさは?

教えはじめたころは、深く考えていなかったんですよ。ずっと続けていたものだからできるとばかり思っていたのに、いざとなると教え方が分からない。枝を落とすときの鋏の持ち方とか、枝の撓め※1方とか、私の場合は自然と身についたもので感覚の部分が多いため説明ができなくて、すごく難しかったですね。そこで余計に本気になりました(笑)。

※1撓(た)める:花の姿をつくり上げるとき、自然の枝ぶりのままでは花材の持つ美しさを十分にあらわせない場合、枝に力を加えて曲げたり伸ばしたりする、いけばな特有の技術。

 

 

お弟子さんに教える際、大切にしていることとは

そのお弟子さんの見た“植物の貌”※2、お弟子さんが持つイメージを大事にしています。私が恵まれているのは、幼い頃から母について花展会場、勉強会場、母のお弟子さんの多くの作品を毎日のように目にしてきたので、自分が生けた、自分が教えた作品数以上のいけばなを見ていること。引き出しの数は人より多いと思っています。だから、その人の思い描くイメージを話しながら捉えていくんです。
ただ、どうしても分からないのが小学生の子、もう未知の相手なんですよ。「先生、マジックかして」っていうから、どうするのかと思ったら長い葉っぱに目を描いて「イカくん、イカくん」って振り回してて「もう、どうしよ~」って思って(笑)…あれには相当鍛えられました。
お弟子さんには自然な美しさを出せるようになって欲しい。誰でも一度は個性を求めたり加工にこだわったり行き過ぎてしまうときがあります。私も過去にあったから。自由なイメージをできるだけ活かしてあげながら、いけばなとして成立するようにといつも考えています。

※2植物の貌(かお):龍生派いけばなの根幹になる考え方。定型化した花のいけかたから離れて、ひと枝、ひと茎が持っている個性を捉えて活かし新たな姿勢で植物に接する方法。

 

今後ご自身が描かれる、先生としてのビジョンとは?

いけばなを生けたり植物を触っていると、気分がネガティブな時にマイナスのオーラを花が吸ってくれます。だから、お稽古に来て花を生けることで、笑顔になって帰ってもらえるような、そんな場所をつくるのが理想です。お弟子さんも、先生になろうとかプロを目指しているわけではなく本当に趣味として習いに来てくれているので、それなりの楽しみ方を提供したい。その意味で、サービス業というか(笑)。そして、私が一番楽しくいけばなを吸収していった頃と同じ小学生、中学生の子どもたちが気軽に通えるような先生になりたいです。介護施設のボランティアで教えることもあるのですが、認知症のおじいちゃんおばあちゃんが、花を触るとものすごく笑顔になって、「楽しい!」っておっしゃる。それはやっぱりいけばな、植物にパワーがあるってことだから、それをさらに伝えていきたい。それと、伝統文化、古典華も残したいですね。

 

堀井静香さん-画像

習い事でいけばなを始めたい!
そんな人たちへメッセージを

花って自然のものなので、同じ花材を使っても二度と同じものが出来ない。すごく良い出来に満足しても写真などでしか残せない。でも、無くなっちゃうからこそ探求できるおもしろさがあるんです。次はそれを超える、満足する作品を作ってやろう、と。いけばなはそれがまた楽しいんですよね。それから何よりも、皆さんのこれからの時間に花が色を添えてくれる。ずっと、そっと。今までの私のように。それってすごく幸せなことだと思います。

 

 

 

PROFILE

堀井静香  ほりいじょうこう
華道会・龍生派所属。龍生派師範である母を持ち、幼少より常にいけばなが身近にある環境で育つ。早くからその才能を開花させ、弱冠26歳という異例の若さで教授活動を開始する。古典の美しさを大切にしながらも、自由な感性で生み出される楽しいいけばなは多くのファンを生みつづけている。

 

華道会・龍生派
明治19年(1886)、初代家元吉村華芸(かうん)が27歳の時、東京において創流。創流120年を超えた現在、全国各地に65の支部・地区組織を持ち各地で活発に活動している。「立華」「生花」といった古典的な様式をはじめ、幅の広い創作スタイルが特徴。


龍生派オフィシャル・ホームページはこちら
「Ryuseiha.Net」http://www.ryuseiha.net/index.html