vol.04 書道家 櫻井流翠(さくらい りゅうすい)


それ自体が意識を持っているかのように白い紙の上を筆が踊り書道家・櫻井流翠氏は、
「人生貴適意」と一気に書き上げた。
自分の気に入った人生を送るのがベスト!との意味を持つこの言葉に
ならいごと.jpをご覧の皆さんへのメッセージが込められているようだ。
集団の中に生きる私たちに、個の表現ができる書道の魅力を説く氏は、やはり個性的だ。
「習事貴適意」を胸に、書の道を訪ねた。

 

 

書道の世界に入ったきっかけを教えて下さい。

櫻井流翠氏-画像

高校生のとき、就職を希望していて、履歴書を筆で書こうと思ったのがきっかけ。昭和29年ですから、年配の人事の方には筆で書くほうが見込みがいいだろうと、近所の書道の先生に習うことにしました。しかし3ヶ月で字を、ましてや履歴書を上手く書けるようになんて、なりません。そんな時先生が私に「字が上手くなるための3つの条件」を教えてくれました。「長男」「凝り性」「不器用」です。「長男」は、親のスネかじりで、自分の好きなこと(書道)に親からお金を出してもらえる。「凝り性」というのは、すぐに結果がでなくても細く長くつづけられる人。「不器用」な人は、大抵何をやってもすぐには上手くならないので、一つの事に打ち込むようになる。字の下手だった僕が今あるのは、この3つの条件にはまったからです。

 

 

お弟子さんに教えるにあたって大切にしていることは。

私は、師匠から非常に幅のある教え方を受けました。手本を与えない先生で、お手本通りはひとつの書き方、私の書いた手本はその詩文の書き方の一つの見本に過ぎないと。あなたの才能はもっと別のものがあるだろうと学ばせる教え方でした。現在、教える立場となった私も、その人に応じて同様の指導をしています。
例えば、書道の展覧会で見本通りの作品が並んでいたらつまらない。幅のある作品が並んで、観に来た方が新しい何かを発見するのは大事なことですよね。私は個人の「個」を大事にするようにと、いつも教えています。

 

櫻井流翠氏-画像

“書道王子”の渡邊翠雲氏など、
先生の若いお弟子さんも活躍されていますね。

先日も知人から「(渡邊氏の)本を買いました!」って言われました(笑)。また、映画のテーマになったり、書道が注目されるのはありがたいですね。
書道をはじめるきっかけはどうあれ、私の会では必ず基本から始めます。スタートは基本の点角です。そして、積み重ねがあって、今度は彼らが教えるようになってからも、やはりお弟子さんには元の基礎から教える。一見回り道のように思うかもしれませんが、それが一番の近道だと私は信じています。

 

 

流翠氏の今後の目標とは何ですか?

作品の幅、書道界全体の活動の幅を今より広げたい。昭和51年に仲間と作った競書雑誌「橘」は、当時では前例の無い、毛筆と硬筆の競書を一緒に取り上げた本で、以来今までつづいています。当時は毛筆のみの競書が一般的で、毛筆と硬筆を一緒に取り上げることには反対意見も多かった。しかし、賛同してくれる先生方もいて、発行することができました。この経験は、私自身の書道の幅を広げてくれました。これからもこういった活動をしていきたいです。
そして、もっと色んなものを書けるようになりたい。また同時に深くしたい。それには、臨書…即ち中国の古典や先人達の書を勉強して、一つの技として自分の作品に取り入れていくこと。そうすることで自運…即ち私の「個」ができていくわけです。もっともっと進化していかなければいけないですね。私自身周囲の方々(先生方、先輩、お弟子さん)すべての人達に非常に恵まれています。その人たちの想いに技で応えたい。遊んでばかりもいられないですよね(笑)。
※競書雑誌…毎月作品を送ると翌月に成績が発表されて、成績がよければ級や段が少しずつ上がっていくというシステムの書道雑誌。現在の日本では漢字中心のものや、かな主体のものなど数百もの競書雑誌が存在する。

 

現在、習い事で書道をやってみたいと考えている方へメッセージを。

櫻井流翠氏-画像

今の時代こそ、手書きの書というのが大事です。字は読めるけど書けない人が増えていますよね。日本人なんだから、やっぱり一番大事にするのは日本の文化である、言葉、字です。
また書道には「個」を発表して、個性を発揮できるという魅力があります。日常の生活の中で自己主張する場ってなかなか少ない。でも書道なら、主張ができるんです。はじめるなら、非常に良いジャンルだと思いますよ。

 

 

 

PROFILE

櫻井流翠 さくらいりゅうすい
1935年生まれ。静岡県焼津市に本部を置く書道会「華翠会」を会長として主宰する。また日展会友、読売書法会理事、謙慎書道会常任理事などを兼任、橘書道会の主宰など、県内を拠点にまさに現代書道界を牽引する書道家の一人である。


流翠氏が主催する書道会『華翠会』(本部:静岡県焼津市)の情報はこちらから
http://kasuikai.hp.infoseek.co.jp/